里山に佇む倉本さん夫妻

若者は今 里山がもたらす美しさの中で

コミュニティ作りで県農業大賞「芽吹き力賞」
市貝町田野辺「わたね」主宰  倉本祐樹さん(38)芙美さん(36)夫妻

日々是好日

 市貝町田野辺の倉本祐樹さん、芙美さん夫妻は、資源循環型の有機農法で育てた希少な在来野菜の定期宅配やお弁当の販売、農業体験などを通して「里山と人」をつないでいる。屋号は「わたね」。「幸せの種『よく笑い、よく食べ、よく眠る』を共有したい」と付けた。昨年度、県農業大賞「芽吹き力賞」を受賞。種は、膨らみ始めている。
13年前、2人は宇都宮市でカフェを営んでいたが、有機農業の実践者たちとの出会いや子どもの誕生などを機に改めて「環境」「食」に向き合う。芙美さんが管理栄養士時代からの願いでもあった。
 5年前、同町の「旬の野菜 爽菜農園」で1年間、ワラやもみ殻などを活用した里山資源循環型の野菜や米作りを夫婦で学んだ。
 「落ち葉を使った温床や堆肥作り。除草作業はほぼ毎日。手間は掛かりますが『野菜の声』を聴き、何を求めているか意思疎通できた時、楽しいです」と祐樹さんはほほ笑む。
 2018年、現在の地に移住。生産者が激減の在来野菜、伝統野菜を中心に80~100品種を栽培している。
 旬の野菜を数種セットで定期発送したり、受注販売のお弁当にしたり。有志でハチマン小麦、加治屋や塩谷の在来大豆からしょう油を製造したり、農業体験会を開いたり。全ては「里山と人、環境と暮らしはつながっている」と気付いてもらうための種まきだ。
 同じ地域の生産者と消費者が定期的に収穫物を分け合うコミュニティー作りも試験的に実行中で農業の恵みの共有、農家の継続的な支援になるという。「芽吹き力賞」受賞の一因ともなった。
 「10年、20年で環境は大きく変化します。今頑張らないと」「みんなが健やかに暮らすために」と2人は語る。
 旬の希少野菜満載の人気のお弁当は、力強さと繊細な美が同居している。それはなぜか。
 「里山に咲く野菜の花や木の芽などを添えると、季節の彩りが自然とお弁当に宿る。里山がもたらす美しさなんです」と祐樹さん。
 原風景を守るため。2人がまいた種は、必ず実らせなければならない。

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