刺繍を楽しむ上野さん

作品に見入る来場者

キラリ人生 夢中になれる喜びを見て・知って

刺繍で感動を紡ぎ初の個展
上三川町西木代  上野 美知子さん(69)

日々是好日

 上野さんは約40年前、子どもの教科書で見た「子育て観音菩薩」に心奪われ、自己流の文化刺繍で90×45㎝の作品を仕上げた。
 その数年後に大病を患い毎日が病との戦いだった。体を休める日が何年も続き、集中する意欲も湧かずに趣味の刺繍からも遠ざかっていた。さらには大切な手の病気で入院することになりほとほと心の痛手となった。
 そんな上野さんは2年前、一念発起して刺繡を再開しようと刺繍のキットを取り扱う東京の問屋に問い合わせた。「苔寺の秋」という作品を紹介され、スタートしたものの気分が乗るまで辛かった。ふと、その時、上野さんは『山登りの時の辛さに似ている…』と思った。若い頃に尾瀬や男体山などに登った時の、いくら歩いても頂上に辿り着かないもどかしさと足の痛み。でも一歩一歩進んで頂上で味わう達成感の素晴らしさが蘇った。『そうだ、今は山の何合目…一針、一歩、一針、一歩』と自分に言い聞かせて制作に励んだ。完成した作品を友だちが「いいね!」と褒めてくれた。その一言で刺繍再開のスイッチが入った。
 刺繍に使う糸は房で届くが、ご主人の一男さん(73)が小分けにして使いやすいように巻きなおしてくれ、娘婿の一貴さん(43)は作品が完成するたびに褒めてくれ前を向かせてくれる。灯篭や枯山水のある自宅の庭をデッサンし、約半年かけてオリジナルの作品を完成させた。五月節句用に甲冑と武将も刺した。富士山や花など一点一点、暮らしの中の感動が刺繍で蘇る。額や作業台は近所の大工さんが誂えてくれる。
 私のように病気で苦しんでいる人、同年代の方に「今からでも夢中になれることがあることを知って欲しい」と、今年12月末まで「文化刺繍個展」を開催中で、和室2間を開放して3~6号の作品17点を展示し、訪れた人たちの感動を呼んでいる。知人の工芸品も展示されている。
(問)上野さん宅☎0285・56・2848

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